大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1727号 判決 1989年1月25日

主文

控訴人らの本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ金四四万円宛及びこれら金員に対する昭和五九年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏九行目の「かつ、」の次に「合理性を有し、苟も、集会、表現の自由を不当に抑制することがないよう」を加える。

2  同四枚目裏二行目の「違法である。」を「違法であり、前記同条例七条一号の不許可事由の解釈につき、『生命、身体、財産の侵害行為が直接惹起されるおそれがある場合』だけでなく、右『侵害行為を助長するおそれがある場合』をも含むとするが如きは、尚更許されない。」と改める。

3  同五枚目表八行目の「不許可とすることは許されない。」の次に左のとおり加える。

「蓋し、集会の主催者がそこで何をやろうとしているのか等の集会の目的、内容に着目して公の施設の使用を拒否しうるとすれば、それは、取りも直さず憲法二一条二項にいう検閲に該当するからである。

のみならず、本件集会については、あくまで淡路国際空港反対期成同盟外四団体及び控訴人森田恒一、同戸次公正両名の大阪湾岸住民が主催したものであって、同集会における中核派の役割は、単に、一参加団体、一支援団体というに過ぎないものであった。

結局、被控訴人市長が、本件集会を不許可としたのは、本件集会の目的が『関西新空港反対』であり、同市長自身の政治的方針と対立するものであったため、政治的考慮によってこれを禁止したのが事の真相であり、正に、このことこそ、憲法が基本的人権として集会の自由を保障することによって避けようとしたものなのである。」

4  同裏四行目の次に左のとおり加える。

「ところで、被控訴人は、宣伝ビラや機関紙等の報道により、本件集会は本件会館の収容能力を超える一〇〇〇名を悠に上回る規模の集会になると推測されたことも不許可事由の一つであると主張する。

しかし、機関紙等においては、ある程度政治的な効果を狙って事を大きく報道することがあることは予想されるところであり、いずれにしても、被控訴人が本件集会の参加人数がその収容能力を超えるおそれがあると思えば、主催者にこれを問い質して調整することは十分に可能であったから、それにも拘らず、これをしないまま本件不許可処分に及んだことは、手続的にも不当である。」

第三  証拠(省略)

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表八行目冒頭から同裏六行目末尾までを次のとおり改める。

「二 右争いのない事実に、成立に争いのない甲第三、第二八、第四六ないし第四九号証、乙第三、第七、第一三、第二五ないし第三〇号証、第三三、第三四号証、第三五号証の九、第三六、第三七号証、原審における控訴人森田恒一本人尋問の結果により成立の認められる甲第四ないし第九号証、第一二、第一三号証、第一五号証の二ないし七(同号証の四、五は同第五三号証に同じ)、第一六ないし第二二号証の各二、三(第一八号証の二、三、第二〇号証の二、三、第二一号証の二、三は、同第五五号証、第五四号証、第五六号証に各同じ)、原審証人松田栄一の証言により成立の認められる乙第二号証の一ないし四、第五、第六号証、第八ないし第一二号証、第一四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる同第四、第一五号証、第二〇ないし第二四号証、右証言により被控訴人主張のとおりの写真であると認められる検乙第一ないし第九号証、右証人松田栄一及び当審証人金田稔の各証言、原審における控訴人森田恒一、当審における同国賀祥司、同永井満各本人尋問の結果(但し、いずれも後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。」

2  同一二枚目裏二行目の「国賀において」の次に「、申請者を全関西実行委員会、」を加え、同一三枚目表一行目の「惹起したことがある。」を「惹起し、威力業務妨害の罪により逮捕され、二審の大阪高等裁判所において罰金二〇万円に処せられた。」と改める。

3  同一三枚目裏二行目の「犯行声明を出している。」の次に「殊に、後者については、その機関紙『前進』に、『この戦闘は一五余年余のたたかいをひきつぐ関西新空港粉砕闘争の本格的第一弾である。同時に三・一公団本社火災攻撃、三・二五三里塚闘争の大高揚をひきつぎ、五・二〇―今秋二期決戦を切り開く巨弾である。』としたうえ、『四・四戦闘につづき五・二〇へ、そして、六・三関西新空港粉砕全国総決起へ進撃しよう。』との記事を掲載し、もって本件集会についての位置付けをし、次いで『肉迫攻撃を敵中枢に敢行したわが革命軍は、必要ならば百回でも二百回でもゲリラ攻撃を敢行し、新空港建設計画をズタズタにするであろう。』との決意も表明しており(乙第二〇号証)、更には宣伝ビラによりその戦果を誇示している。」を、同八行目の「あることなどから」の次に「(なお、控訴人国賀は、以前同派の拠点の一つである前進社関西支社に常駐していたことがあり、また、控訴人永井については、『前進』において、前示四月四日の事件につき、『これはわれわれ住民の、人民の怒りがどんなものであるか、人民を無視して一方的なことをやるならば何が起こるかということを警告したものだ』等の意見を表明している(乙第二三号証)。)」

4  同一四枚目表四行目冒頭から同五行目末尾までを次のとおり改める。

「ていた。そして、本件の申請を受けた被控訴人においては、申請者である全関西実行委員会がどのような組織としての実体を有するものであるのかを把握した後、右申請に対する最終的な許可、不許可を決定しようと考え、控訴人国賀が許可申請者兼責任者となっていた右デモ行進の動向にも注目していたところ、その状況は、『四・四ゲリラ戦闘万歳!・関西新空港実力阻止闘争・中核派』などと記載された横断幕を掲げ、参加者のほぼ全員が白ヘルメットにマスク姿という出で立ちであって、その前後等を警察官が警備するという有様であったため、これに不安を感じた商店の中にはシャッターを閉じる所もあるというものであった。このデモ行動には控訴人国賀自身も参加してビラの配布活動なども行っており、被控訴人は、これらの様子から、同控訴人は中核派と行動をともにする者であり、全関西実行委員会と中核派とは同一体の関係にあるとの感を深めた。」

同八行目の「市大最大」を「市内最大」と、同一〇行目の「設置されたもので、」を「設置されたものであるが、会館は自ら企画実施する各種事業のほか、市民の生活文化の向上及び社会福祉の増進のために行う教育等の集会、市内の公益団体及び労働団体がその目的のために行う集会並びにその他市長が会館の管理上支障がないと認めた集会に供するものとされ、」と各改める。

5  同裏五、六行目の「泉佐野市事務処理規程に基づき、」から次行の「総務部長が」までを「泉佐野市事務処理規程には本件会館館長の専決事項とされていたが、昭和五四年九月に本件会館において総評の青年部が主催し、これに約四〇名の中核派も参加した空港反対並びに原子炉撤去決起集会が開催された際に、参加者においてヘルメットを着用しない等の制限事項に反したり、警察官と小競合いがあって、周辺住民から苦情が出され、今後、このような集会には、本件会館を貸さないようにとの要望がなされたことなどを契機に、それ以降は、政治団体による集会や社会的影響のある集会等特別の場合には、同規程六条一項別表第一の「比較的重要な事項」に該当するものとして泉佐野市総務部長が、」と改める。

6  同一五枚目表三行目の「昭和五九年四月二二日」の前に「前示」を加え、同四、五行目の「本件集会の主体となると判断される」を「本件集会の許可申請者は全関西実行委員会(正式名称は三里塚決戦勝利百万人動員全関西実行委員会)とされているが、その実体は、中核派が主催するものであると判断されていたところ、」と、同一〇行目の「使用させたことは」を「使用させることは、既に認定した本件集会に至るまでの中核派の一連の主張や過激な行動、これによって惹起された当時の社会的な情勢からして、本件集会及びその前後のデモ行進などを通じて、不測の事態を生ずることが憂慮され、かつ、その結果、本件会館周辺の住民の平穏な生活が脅やかされるおそれがあって、」と各改める。

7  同一六枚目表四、五行目の「約一〇〇〇名」以下、同七行目末尾までを次のとおり改める。

「前示『前進』によれば、二六〇〇名が結集したと報じられ、少なくとも約一〇〇〇名の参加があった。

以上の事実が認められ、右認定に反する前掲控訴人森田恒一、同国賀祥司、同永井満各本人の供述部分は、前掲各証拠に照らしてにわかには採用することができない。」

8  同一七枚目表七行から八行目にかけての「市長」を「市長から権限の委任を受けた総務部長」と改め、同一〇行目の「本件会館の」の次に「前示設置目的を効果的に達成すること及び適正な」を加え、同裏八行目冒頭から同一八枚目裏六行目末尾までを次のとおり改める。

「2 次に、本件条例七条一号の事由の有無について判断する。

先ず、本件条例七条一号にいう『公の秩序をみだすおそれがある場合』とは、他の人々の生命、身体、財産の安全を不当に侵害するおそれのある場合のことであるが、かかる事由によって基本的人権たる集会、表現の自由を制限できるのは、右公共の安全に対する明白かつ現在の危険が存在する場合に限ると解するのが相当である。

そして、かかる見地から本件不許可処分をみるに、前認定のとおり、中核派は、関西新空港反対闘争の一環として、本件不許可処分をなした昭和五九年四月二三日の直前の同月四日に、大阪科学技術センター及び大阪府庁において連続爆破事件を起こし多数の負傷者を出すなど人の生命、身体、財産を侵害する違法な実力行使を行って一般市民に対して畏怖の念を抱かせているばかりでなく、本件集会は、かかる闘争の延長線上にあるものと位置付けていたこと、一方、前認定の中核派と控訴人国賀ないしは同永井及び同人らが主催する全関西実行委員会との関係、同控訴人ら及び同委員会の本件集会における位置、役割、本件集会の目的、中核派の闘争方針及び本件集会への対応、本件不許可処分前日の控訴人国賀が許可申請者となっていた関西新空港反対のデモ行進における中核派の役割及び行動等を総合すると、同派は、単に本件集会における一参加団体ないし支援団体というに止まらず、本件集会の主体をなすか、そうでないとしても本件集会の動向を左右し得る有力な団体として重要な地位を占めるものであったことは明らかである。

このような状況に加えて、前示のとおり、控訴人国賀は昭和五六年の集会において混乱を惹起したことがあること、中核派が他の団体と対立抗争中であることは公知の事実であり、同派が他の団体の主催する集会へ乱入する事件を起こしたことがあることからして、本件集会に同派と対立する団体が介入するなどして本件会館内外に混乱が生ずることも多分に考えられたこと、本件不許可処分前日の中核派も参加したデモ行進については、市民の間からも不安の声が挙がり、このような極左暴力集団に対しては、本件会館を貸さないようにとの要望等がなされていた。

このような状況の下において、控訴人らの集会、表現の自由を確保すべきこともさることながら、同時に、その市民の平穏な生活の保持につき、これを配慮すべき立場にもある被控訴人において、本件集会が開催されたならば、少なからぬ混乱が生じ、その結果、一般市民の生命、身体、財産に対する安全を侵害するおそれがあること、すなわち公共の安全に対する明白かつ現在の危険があると判断したことは、真に無理からぬものというべく、被控訴人市長から権限の委任を受けた総務部長において、本件集会につき、本件条例七条一号にいう『公の秩序をみだすおそれがある場合』に当たると判断し、その申請を不許可としたことについては、責むべき点はないものというべきである。また、被控訴人が、申請者、その構成員、集会の目的等につき調査をすることは、右申請の許否を判断するに必要な範囲に止り、かつ、その方法が適法なものである限り、当然許されるものというべきであって、本件において被控訴人のした前示調査を違法なものと認めることはできないから、右調査が検閲に該当するものと認めることもできない。」

9  同一九枚目表四行目の「いたことは当裁判所に顕著な事実であって、」を「いたものであって、」と、同八行目の「約一〇〇〇名」を「約一〇〇〇名ないし二六〇〇名」と各訂正する。

10  同一二行目の次に以下の文言を加える。

「なお、控訴人らは、本件集会の参加人員が本件会館の収容能力を超えるおそれがあるとするなら、主催者にこれを問い質しこれを調整することは可能であったのにこれをしないで本件不許可処分に及んだことは手続的にも不当であると主張するが、被控訴人の総務部長が収容能力の点から本件条例七条三号該当の有無を判断するに際しては、右集会に予想される参加人員と本件会館の収容能力の点を勘案すれば足り、参加人員を調整することまで要求されるものでないから、控訴人らの右主張は採用しない。」

11  同末行目から同二〇枚目裏七行目までを次のとおり改める。

「4 そうすると、本件条例七条一号及び三号に該当するとの理由でなされた本件不許可処分は適法であり、かつ、前認定の事実に徴すれば、既成政党の統制を受けないで関西新空港に反対する団体には本件会館を使用させないという差別的取扱いをし、また、本件集会の目的が被控訴人市長の政治的方針と対立していたため政治的考慮によって本件会館の使用を禁止したものということもできないし、これを認めるに足りる的確な証拠もない。

それならば、本件不許可処分が違憲、違法であることを前提とする控訴人らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」

二  よって、控訴人らの本件請求をいずれも棄却した原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例